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2004年06月29日

夏、川と少年を巡る本

[ 1-本とある日 ]

 川の近くに引っ越してきて、まず最初に読んだ本が『川の名前』。ネットでうろうろしていたら、見つけてしまい、注文。こういうのはジュブナイルもの、って言えばいいのかな? 読んでいる途中で、近くの川をバックにして、本の写真を撮ってしまった。こんなふうに自分の生活の変化とピタリと重なる本を読んでしまう時というのは、財布がピンチになる時でもある……。

『川の名前』 著者: 川端 裕人著 税込価格: ?1,785 (本体: ?1,700) 出版:早川書房 サイズ:四六判 / 381p ISBN:4-15-208567-3 発行年月:2004.5

著者コメント/川端裕人/2004/05/07
ひとことでいうなら、小学校五年生たちが活躍する「川小説」です。
少年・少女時代、川で遊んだ記憶のあるすべての人にお勧めです。

 男の子はある日、突如、自分とは何かを考え始め、少年になる。自己同一性を担保するマテリアルを見つける秘密の旅に友達と一緒に出るのだった。そして、人間の世界に着地し、接続し、さらに離陸する未来の方向を見定める。自分の位置を測るモノサシを手に入れるための試練だ。かっこよく言えば、空間(地平)軸と時間軸に渡ってモノサシを拡張し、自分の存在をその中に位置づけるための通過儀礼。この小説の場合は、自分の住んでいる場所(川)と自分の関係を突き詰めていく過程で、友達や家族との関わり方を更新する。小説では登場人物それぞれの「更新」がきちんと描かれている。エライなぁ>書き手 でも、出てくる少年、みんな優等生だし、真面目すぎやしないかなぁ? そうでもないのかな、今は。
 少年にとって自己同一性を探る方法はいくつかあると思う。この小説を読むと、田舎でも都会でも都市近郊でも「住んでいる場所との繋がり」というのが重要なのかな、と思ったりする。いや、少年特有なのか、それとも、著者の年齢や育った場所が私と同じだから、大人になるための同様な通過儀礼の方式を採用していたのかもしれない。果たして、このお話が今の少年にも通用するんだろうか、そこが気になるけれど、この本は少年向けではなくて、大人が回想して楽しむ本なのかもしれない。
 自分が小学生5年生の時を思い起こしてみる。都市近郊に新参者として転居してきた自分は、住んでいる地域の縄文遺跡を調べた。いろんな畑に出向いて、畑に散らばる土器片や石鏃を片っ端から集めまくった。等高線の引かれた白地図に遺跡を書き込み、それぞれの遺跡についての調査記録をノートにまとめた。自分が新しく発見した遺跡さえあった。
 一人で畑を歩き回り、縄文土器の欠片をひたすら集めてその年代を特定したり、当時の縄文人が歩き回った原野を想像するのが楽しくてたまらなかった。おかげで部屋中が土器だらけになってしまい、押入の底が抜けるからいいかげんにしろ、と親に怒られていた。友達と共同でやるのではなく、あくまで一人でやる、という点は、この小説の主人公が当初やろうとしていた方法とどこか似ているかもしれない。縄文遺跡調査は、小学生の時に流行っていた(らしい)郷土史研究ブームが背景にある。都市のベッドタウンとして新興住宅地の宅地造成が盛んだったため、あちこちで遺跡が発見され(てしまい)、どこもかしこも調査が行われていた(早く調査を終わらせないと土建屋さんが困る)。それゆえに、今、縄文遺跡は存在しない。すべては他人が所有する宅地の下であり、自分の記憶の中だけに縄文遺跡が残っている。ゼネラルサーベイはおろか、トレンチ調査もされないまま、名もなき小学生の表面採集だけされて、宅地になって消えてしまった遺跡たち。ゴッドハンドの出る幕もなく、歴史から消えた数千年前の遺跡、たとえば「文六遺跡」は、自分の記憶の中にしか存在しないはずだ。
 小学生の作った拙い縄文遺跡調査ノートと地図はダンボール箱に閉まってあって、引っ越しの時も捨てることができなかった。もう、その場所・縄文の世界とは無関係なのに。笑えるのは、縄文遺跡と宇宙、星やUFO関係まで、当時は等価に位置づけられていることだ。当時のノートと一緒に、当時買った藤井旭氏の星の本だとか、大陸書房の本の新聞広告を貼ったノートだとか、日本宇宙現象研究会(当時流行ったUFOについての目撃談を集める団体)の会報まで残してある……つまり、別に縄文でも川でも宇宙でもUFOでも、なんでもいいらしい。自分はここにいるぞ、と確認できる指標、近くてしかも遠い指標を集めまくり、世界の拡がりを確認し、世界を見る遠近法を手に入れようとしていたのかもしれない。その後、中学時代は、怪しい縄文やUFOの世界から離れて、理科部天文班で流星研究をやるのだけれど、小学生当時の「古代ロマンの夢想の熱病に浮かされたような縄文土器片コレクター生活」とは違っていた。友達と夜中集まって、ラジオを聴きながら、朝までとりとめのない話しをしながら、星空を見続けていた。もちろん、表向きは科学的な共同研究・観察だった。
 『川の名前』を読みながら、銀林みのるの『鉄塔武蔵野線』を思い出した(新潮文庫にある)。自分は映画版のほうが好きだけど。夏の乾いた畑の中を鉄塔を追いかけて北に旅をする少年の姿に自分を重ねてエールを贈りたくなる。ちなみに、自分が引っ越した場所から、この鉄塔武蔵野線が見えるのだった。『川の名前』『鉄塔武蔵野線』の2点で、自分は再び少年に戻り、新しい世界と接続するらしい。

Posted by gont at 2004年06月29日 00:37