GONT-PRESS_Climb&RUNTOP |
[ 6-山とある日 ] |
(今から思うと滑稽な記述ですが、当時は真剣でした)
八ヶ岳阿弥陀岳南稜〜赤岳西壁南峰リッジルンゼルート
GONT(単独)
1995年3月18日〜19日
予定はこうだった。八ヶ岳阿弥陀岳南稜〜立場川奥壁右ルンゼ〜赤岳西壁南峰リッジルンゼルート。が、プレッシャーに耐えきれず、11月に体調を崩し、ついに翌年3月になってしまった。
これまで独りでやってきて、限界なのではないか、と思うが、約束したのは自分だ、そう決めたからには、完全に冬が終わるまえに決行しなくてはいけない。
会社勤務の金曜、前日は久しぶりによく眠れた。恐ろしいほどに静かな気持ちだ。
準備はできた、ということか。
一昨年1月、広河原沢右ルンゼ右俣は登ったものの、
ツメの大ラッセル大会で半日かかったうえ、氷化した南稜P3の巻きルンゼで敗退した。
今回は登りだしたら、登るまでだ。そして継続する。
1日目
前回と同じく満月の舟山十字路03時40分、立場山へひたすら急ぐ。月が導く。
天気快晴、ダルイし寒いがP3の下まで問題なし、全装備装着。
今回は堅雪、これならイケル。アンカーのピンが消えているので2本打ち、
タイオフしたが効いていないだろう、落ちなきゃいいんだ、とそう思うことにする。
ロボットで自己確保して急なルンゼ内の雪を登る。ロープの流れが悪いし、
途中でランニングもとれない、雪の下は岩だ。ともかく登るしかない。
何度も雪カキするが、アイスピトンの打てる泥壁もないし、
ピンを打てそうな岩も出てこない。右に左に行きながら、
ついにはロープが伸びきってしまった。ロープを切るか?
(今から考えると、こんなところで登り返しをやるぐらいなら、
登らないほうがましな力量だったのだ)
上の草付きを越えると潅木がある、あそこまで登ればいいんだ。
スリング長4本+アブミ2台+ピッケルバンド……すべてつないでみる(笑)。
ダブルアックスでいやらしい数歩、あとはやさしくなった。よし、潅木につく。
ゴボウがらみをまじえて下降、ザックを背負いプルージックを付けて登り返す。
装備はグチャグチャになってしまい、チンドン屋状態になる。
なんてヘタクソなんだ! いいかげん、頭にくる。整理整頓!
ハーネスと僅かな装備を付けて、トラバースしてP3の頭に出るころには、
雪が降り出した。
P4と頂上の段差が間近、疲れて気持ちが無機的になる。
トボトボ頂上をめざす、立場川奥壁は立っている、あれは登れそうもないな……
アブミからなにから、無意味な重い金属を担いでいるわけだ。
怖いところもほとんどなく阿弥陀頂上に達する、風が強い、しばらくボォッとする。
ここでビバーク? イヤだな、時間もあるし、行者に降りる
(これで立場川への継続はキャンセルになった)。
どういうわけか、どっと疲れてしまい、行者のツェルトで
雑炊を食べながら眠ってしまう始末。はっと気づき、悲しい気分になる。
あぁ? 明日はどうしよう? 明日は明日だということで、
ペタペタのダブルシュラフ(羽毛+綿(笑))のなかで眠りに落ちた。
2日目
快晴。すっかり寝坊した。どうするか。
昨日の失態で自信がない、予定はキャンセルだ。
だが快晴、赤岳を一般道から登って帰るか、
ツェルトもハーネスもロープもヘルメットも、ガチャも置いて出掛ける。
7時。登っていくうちにどういうわけか元気が出て気が変わる(まったくいいかげん)。
どこか登ろうと思う。中岳のルンゼ? 見送る。立場の取り付きまで行くか?
文三郎を登っていくと、南峰リッジが近づいてくる、これだ、この傾斜……なら!
もう、これに決めた! いろいろと見物して、可能性を窺う。トレースなし。
30分ほど、下で観察し、ルンゼルート末端から絡んで堅雪の斜面に足を踏み出す。
これで登れなかったら? なんて考えない。グングン行く。
最下端のルンゼに入り、背丈ほどの凍った小滝を越える。
前歯が効くがちょっと怖い。
だいたい、まともなアイスクライミングをやったのは数回、無謀なのだろうが、
どういうわけか、絶対に登れるという自信とファイトが身体を持ち上げる。
クラストした表面の下はモナカ、ときどき氷が出る。
モナカを探しながら、キック&ピオレカン。「これならいける」となんども口に出す。
ときどきステップを切って休むが、傾斜が増して氷が多くなってダブルアックス。
リッジ末端壁を右手に見送り、左の小岩峰との境にある3mの小滝にぶつかる。
落口にピックが決まったが、二手目がモナカ雪、身体が上がらない。
前歯で刻んで登るがおっかなビックリだ。その上は傾斜がさらに増している。
これ以上登るなら、覚悟を決めなければならない。
ルンゼ通しに行き、途中で左のリッジに移ろうとする。無理な姿勢で移ってから、
困った、雪が薄くて足場にならない、怖すぎる!
クラストした雪も氷もない、グズグズの八ヶ岳の岩だ、もう、戻れない。
前歯で探りながらチャキチャキ、目測で10mぐらい一気に登るしかない。
ピックなんて刺さらないが、ヤミクモに打ちまくる、ピック曲がる、
どこでもいいから引っかかりゃーい〜んだ!
一気に行けっ、行くんだ! 上にしか可能性はない!
わずかに休んで、さらに10m、さらに行く、ふくらはぎがもたないし、
バランスが保てないので、右手のリッジに近づき、強引なトラバース。
リッジは安定していた。
数歩登ると、南峰が待っていた。快晴、無風、春の八ヶ岳、佐久の裾野が眼下に拡がっていた。
終了9時半。
こうして、勝手に決め込んだ弔い合戦は引き分け? に終わった。
いや、まだ終わってはいない、そう思い、山を下る。
(後記/この後、パソコン通信経由で社会人山岳会に入会した。
装備を含め、あまりにも時代錯誤なことをやっていたことに気が付いた。
ううむ、オレは化石だったことに気が付いた(笑))