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[ 6-山とある日 ] |
3月。雨がZA-ZA-降っている。どうする? と電話。ともかく出発することにする。行かなければわからない。水上を過ぎると雪、チェーン付ける。JR土合駅付近で本降り。これでは明日は無理か? ドライブインの駐車場に車を停めて、雪のなかテントを張る。地面の雪は水っぽい。男3人、飲んで早々に寝る。1996年3月16日朝、起きると快晴! すぐさま車を出して、天神平スキー場の駐車場に向かう。スキー客に混じって、大急ぎでパッキング。このチャンスを逃すな!
ロープウェイに乗って楽しいスキー!……ではない。目の前のロープウェイ駅を左手にやりすごし、指導センターに寄って、雪道を一の倉沢出合に向かって突き進む。
山腹を廻り込んで行くと、最初に現れるのがマチガ沢。蒼空に雪煙が映える。稜線はかなり強い風が吹いているようだ。
ラッセルもなくボコボコと歩いていくと、突如、一の倉沢が全貌を現した。圧倒される雪と岩と空のコントラスト。今回はいちばん左側の潅木のある稜線を登る。上部の大きな尾根(東尾根)に出たら右折して尾根を直上、谷川岳本峰に至る。そこから西黒尾根を下降して、車のあるところまで下降してくる予定だ。
稜線からはひっきりなしに小さな雪崩が起こっている。滝沢(左)に起こった雪崩は、大滝を飛び越えて落ちてくるが、途中で強風に煽られて渦を巻きながら上昇する。
強烈な光景を眼にして、しばし唖然とする三人。「いつ天候が崩れるかわからない。さぁ、出発しよう」と先輩。
装備一式を背負って沢に入る。ラッセルはほとんどないが、沢の上から強い風が吹き下ろしてくる。一面、ギラギラしている。
すでに先行者がいるらしい。目的の稜に向かって雪面を行く。ココロが踊る。
稜の取り付き付近は、一の沢と本谷からの風が合流して正面を向けないほどの飛雪。雪崩も怖いので全力で到達する。しばらく緩い斜面を登っていくと、右手に衝立岩の黒々とした壁が見える。雪がついていないのは、当然ながら垂直に近いからだ。登れそうなので、うれしいゴント。
右手には二の沢の上部と滝沢リッジが大きく見える。長大な尾根だ。
次第に傾斜が増してきて、アイゼン(登山靴にはめるスパイクのような滑り止め)が効果を発揮する。右手後ろにまわった衝立岩に続き、烏帽子沢奥壁(左)が姿を現した。潅木混じりの急な草付斜面、思ったより悪いが、ロープを使わないでどんどん行く。
潅木につかまりながら強引に急傾斜の稜を登り詰めると緩やかな雪原の手前に出る。ここで一息。ときどき突風が吹くので太い針葉樹にセルフビレーをとる。気温はそれほど低くはないが、このまま進めるだろうか。先行パーティもここでストップして様子を見ている。先輩はどうやら行けると踏んだようだ。装備の再点検をしている。
喉がカラカラだ。テルモスの茶を飲んでタバコを一服……にしてもSさん〜そのサングラス、やけにハデだぞぉ。
最初は緊張していたゴントも、身体がほぐれてきた。が、この休息地から登り出したとき、突風に身体をもっていかれそうになった。油断禁物。
傾斜はますます急になる。雪面が割れて、その段差が越えられない。なんども切り崩しながら上の雪面にはいあがる。時間は容赦なく過ぎていく。なんだかんだいってもゴントのような初心者では速度が出ないのだ。替わって先輩がトップに立つ。急な潅木草付斜面も強引に越えていく。街でみる優しい雰囲気など微塵も感じさせない、驚くべきパワー。すっ、スゲェ。
上部稜線に出た。陽がすっかり傾いている。とんがった小さなピークが続く。雪面が不安定でほとんど垂直、下降にはロープを使うことにする。降りたら、すぐにまた登る。再び小さなピーク、ロープの支点となる潅木を探して雪面を掘り下げる。なかなか見つからない。ようやく掘り出した小さな潅木(石楠花)の根本に輪になった紐を結び付け、これにロープを通して懸垂下降する。
そのまま岩峰をアイゼンでガリガリと音を立てながら登り、さらに左右がすっぱりと切れ落ちた雪稜(ナイフリッジ)を渡れば、あとは東尾根に向けた急斜面が待っている。ゴントはもはやスピードが出ない。明日のことを考えれば、こんなところでモタモタしているわけにはいかないのだが。
夕暮れになり、そして暗くなり始めたころ、ようやく東尾根に達した。しかし稜線は雪の状態が不安定(雪庇)で簡易テントなどおいそれと張れない。登ってきた斜面を少し下って戻り、雪面にできた大きな段差状の穴のなかを今夜の寝床とする。スコップで整地する。なんだか上から雪面が滑り落ちてきそうで怖いが、吹きさらしの雪面に座っているよりはマシだ。どうも雲行きが怪しい。
03時から降雪、上部の雪面に降った雪が風に運ばれて雪穴に滑り込んでくる。あっと言う間に簡易テントの片側が埋まりだす。このままでは生き埋めだと気づいた先輩が外に出て除雪するが、そのたびに真っ白になってしまう。すぐ脇からまた雪が滑り込む。ゴントとS氏も交替で除雪する。
朝飯を食べ、明るくなってきたので出発する。雪は小降りになり、次第に止んできた。視界は効かないが、ともかく高いところへ向けて登っていく。地図上では大した距離ではないはずなのに長く感じる。一箇所、ロープを出す。第一岩峰は一の倉側を巻く。ゴントは遅れ気味だ。
ようやく、待望の国境稜線に出る。いきなり突風に叩かれる。痛い。ヨロヨロしながら肩の小屋にたどり着き、ほっとしてテルモスのお茶を飲む。今度は西黒尾根の下降。ガスが巻いて下降点がよくわからず、ゴントは間違えそうになったが、先輩が修正してくれた。風は止んだが、完全にホワイトアウト、なんでもないところなのに緊張する。
厳剛新道分岐あたりで急に視界が開け、天神平のスキー場の喧噪が右手から聞こえてくる。スキーヤーがアリンコのように見える。まったく春の世界だ。尻滑りでどんどん下り、あっと言う間に駐車場まで戻ってきた。
今回、やばそうなところは先輩にリードしてもらっている。スピードも足りなかった。冬の本格的岩を登るエキスパートがいかに強いか……あらためて驚いた。問題は多々あったけど、冬の谷川を登れたということだけで、ともかくうれしかった
◆場所/谷川岳一の倉沢一の沢・二の沢中間稜〜東尾根〜西黒尾根下降
◆メンバー/ゴント含め計3人
◆日程/前夜発一泊二日 1996年3月16日〜17日
◆時間とコース/東京・府中 3月15日22:00--(車)--
3月16日 快晴強風〜曇り
駐車場手前の適当なところでテントを張って寝る(降雪)--駐車7時半--一の倉沢出合い
-- 一の沢・二の沢中間稜--東尾根下30mビバーク19:00
3月17日 夜半から降雪〜曇り強風〜ガス〜晴れ
ビバーク地7:15--東尾根--オキノ耳--西黒尾根--駐車場13:00