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第1回『鉄塔武蔵野線』ファン・ラン-5

[鉄塔調査レポート4/4]Edition.1.0_2004.09.21
*〈〉内は、小説で使われた言葉 *写真をクリックすると、大きい画像が出ます
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〈原子力発電所通り〉―川越線を越え1号鉄塔にたどりつく―


 狭山大橋のゲートを通過して、坂を降りてしばらく行くと左手にコンビニがあったので、そこで大休止の昼飯とする。10時45分。走りながらパンやおにぎりを食べてはいたものの、エネルギーが枯渇、脱水も甚だしい。500ミリリットルのボトルを2本追加する。まだ半分来てないのだ。疲れが急速に足に来て、速度が上がらなくなる。武蔵赤坂線(旧武蔵野線)は、右手を通っているはずだが遠くて見えない。小説では、智光山公園付近で旧18号鉄塔が見られるはずだったが、その位置まで公園内を移動する気力が失せていて、途中で戻る。公園内にトイレと水道があるのを確認(帰りに寄ろう!)。再び道路に出て養護学校を右手に見て通過、坂を下って圏央道の下をくぐり、南小畦川を渡る。


 映画では、鉄塔パトロール扮する田口トモロヲが見晴少年を追いかけて、川で渡板をはずされて逃げられるシーンだと思う。この後、見晴少年は〈カントリー・クラブを強行突破〉しようと試み、管理人に足払いを喰らわされる。ひどい大人だよな!(小説での位置は「日高ゴルフ場」だが、撮影は別の場所で行われている)。

 ゴルフ場を右手に、道なりに北西へと走り、小畦川を渡ったあたりで、武蔵野線が頭上を交叉して左へと消えていく。自分は高萩団地の道を登っていく。このあたりの記憶は、疲れのためかあまり残っていない。


 住宅地の中を通る細い道をさらに北上していくと、川越線の踏切で「女影」と書いてある、ここは確かに「日高」だ。


 小説や映画では、主人公の最後の鬼気迫る鉄塔遡行が展開される場面だけれど、自分はもはや、自分のランで手(足)一杯になっている。この小説を書いた著者の銀林みのる氏は、このあたりも緻密な「取材」をして突破しているようだ。

  川越線のすぐ先で、小畦川を渡る。映画では、おおたか清流の歌をBGMに、最後の気力を振り絞って突進する見晴少年の川を走り渡るシーンが印象的で、思わず涙ぐんでしまう、のはオレだけか?

 風がほとんどなく、暑くてしかたがない。あと少しだ、少しに違いない、少しであってくれ! そんな気持ちで棒になってきた足を北に進める。すると、区画整理された広い道路に出る。ここを左折してしばらく行けば、あの有名な4号鉄塔のT字路にぶつかる。見晴少年が鉄塔パトロールに待ち伏せされて捕まってしまう場所であり、一本道と送電線が平行して1号鉄塔まで続く〈原子力発電所通り〉なのだ(実際には変電所)。


 やっと来たか、という思いで北へと〈原子力発電所通り〉を進む。左右には栗の木がまばらに植わり、とうもろこしの畑なども点在する。家はほとんど建っていない。傾斜はなく平らだ。空き地で少年たちがサッカーの試合をしていて、男親たちが、一本道に車を止めて、腕を組んで試合を観戦している。その横をゆっくり走り抜け、3号鉄塔、2号鉄塔と写真を撮りつつ進む。


 最後の十字路にさしかかると、目の前に、たくさんの鉄塔が乱立している。ここだ、変電所だ! 不思議な光景だった。変電所の周囲を取り囲む針葉樹の背後からニョキニョキと鉄塔が「生えている」。


  変電所の手前には古い家屋があり、その上に、大きな1号鉄塔が見える。



 最後の直線を走りきり、古い家屋の裏手の道路に回って、ついに1号鉄塔の看板を見ることができた。


 耳を澄ますと、変電所の中からブーンという鈍い音が響いてくる。水を飲んで、スポーツゼリーを流し込む。時間を見れば、ちょうど12時00分。5時間40分もかかっている。

〈帰り道は、ずっと鉄塔を辿ってくんだぞ〉―遠い遠い復路―


 さぁ、帰らなければ。復路は別ルートも考えていたが、そんな余裕もない。膝がおかしくなってきたので、日が落ちるまでに戻れるかどうかわからなくなった。往路で迷った場所ではできるだけ広い道を選んで通るべきだが、迷わず行けるかどうか。疲れてくると判断能力が落ちてくるから、下手に往路をはずすととんでもないことに……。

 〈原子力発電所通り〉を南下、智光山公園でトイレに行き、水道で膝や頭に水をかけ、ボトルに水を足す。再び走り出そうとして、筋肉痛の足が思ったように上がらないことに気が付く。狭山大橋手前のコンビニで再び食料を調達し胃に流し込み、ドリンクも補給。狭山台へと上がり、ジグザグに東進していく。復路でも丘状の林を抜ける林道を通って行ったが、今度は民家のど真ん中に出てしまい、庭の小さな畑で農作業をしているオバサンと鉢合わせてしまった。オバサンは眼を丸くしていた。ピチピチタイツを履いて大汗をかいたオジサンが裏山からいきなり飛び出してきたら、そりゃ、たまげる。深々とお辞儀をしたままの前傾姿勢で駆け抜け、押し通る。おばさんごめんなさい。


 ローソン堀兼中流店で再び1リットルを補給、すでに14時30分。迷った森のあたりは少し遠回りして広い道を通る。一本道に出てからは、南東に向かって走り続けるのみだ。どんどん歩幅が狭くなり、膝が痛んで踏み出せなくなってくる。まずい。セブンイレブン所沢亀ヶ谷店で珈琲とアクエリアス、ヴァームゼリーを補給。この時、16時20分。あと少しでJR武蔵野線の高架を潜れるはずだった。

 ところが、所沢の「城」へ行く道を間違え、左にルートをはずして、関越を潜るトンネルのほうへ行ってしまう。このままだと遠回りになる、でも、戻るのは大変、なんとかならないか? 焦りからか、川沿いの砂利道を通ってショートカットして戻ればいいと考え、砂利道に入ってしまう。しかし道の奥は廃棄物処理場となって藪に消えていた。強引に突破するか? 夕暮れの狭い川の生臭い汚水の匂い、産業廃棄物、ゴロリと転がったカラスの死骸、そして朽ちかけた右翼の街宣車……荒んだ光景に疲労しきった頭が反応する、だめだ、ここは遭難ルートだ、戻れ、と。たいした距離ではないはずだが、最後のロスで、心身ともかなり堪えた。見晴がアキラに言った言葉〈帰り道は、ずっと鉄塔を辿ってくんだぞ〉は正しかった。

 正規ルートに戻り、所沢の「城」からは滝の城址を左手に一気に南下、JR武蔵野線を高架下を通る。両足が「すり足」状態となる。早足より少し早い程度の速度。日が落ちてきたが、ここまで来ればなんとかなるはず。団地の道を登って志木街道に出て左折、そこから出る枝道を東進し、米軍通信基地横の富士見新道へと出たら、南下。ちっとも進まない。そのまま道なりに住宅地を南下、見慣れた風景になってきた。あと少しだ。そして、坂を降りて行けば、スタートした黒目川の栗原橋だ。


  着17時40分。暗くなり始めた東の空低く、鉄塔武蔵野線が見えた。お疲れさま。(完)


調査隊メモ

2005年「第2回『鉄塔武蔵野線』ファン・ラン」

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