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2006年06月09日

「透明テキスト付きPDF」とAmazonの「なか見!検索」、Googleの「ブック検索」

[ 1-本とある日 ]

参考リンク:
[追記2006.06.09]
MicrosoftとAdobe、PDFめぐる交渉で行き詰まり@ITmedia

追加


 「透明テキスト付きPDF」と出版社の関係について、考えてみます。
 「透明テキスト付きPDF」とは、PDFの画像化されている文章の上に、その文章が透明なテキストとして貼り込んであるPDFです。画像でもあり、テキストでもある、という二重の機能を持っています。これゆえに、本文が外部から検索可能になっています。
 Amazonの「なか見!検索」も、Googleの「ブック検索」も、「画像の上に透明テキストを重ねる形式のPDFを作ることで、透明テキストを使ってPDFを検索できる」から可能な技術です。
 ここで問題になるのが、著作権に関してです。著作権者の承諾を得る必要があります。もしダメな場合は、透明テキスト付きは止めて、普通の画像アルバムとしてのPDF、または、jpeg画像のみ、にしなくてはなりません。
 ところでネットの上で人間が自由に行き来して立ち読みをするには、「検索」という「視点を動かす道具」がどうしても必要です。ネットのなかの人間は、脚を持っていません、それに代わるのが「検索」(ナビゲーション)になります。書物のメタ情報(著者や出版社などの情報)はすでに公開されていますが、本そのものが「開く状態」になっていてこその「立ち読み」ですから、「透明テキスト付きPDF」は、本の紹介の方法としては、現在のところ、ベターなフォーマットだと思います。
 もちろん、PDFがベストだとは言えません、リーダーのワンクッションがあり、扱いにくい面も存在します。
 ただ、既存の出版社のコンテンツの権利が重要になってくるなかで、GoogleやAmazonが、この方式を採用しているのは、そこに彼らが、ビジネスチャンスの「突破口」を発見していからです。それは同時に、既存の出版社にとっても、隠されたビジネスチャンスだといえるでしょう。
 「透明テキスト付きPDF」の登場とその利用は、今後、特にオフィス内の文書管理において、社内サーバベースでの標準フォーマットとなり、また、インターネットにおいても、サーバによってファイル形式が自動的に変換されて利用されるなど、シームレスな利用が可能になってくると思います。
 紙の出版社にとって、この流れにどう乗るかは、重要な局面です。AmazonやGoogleといった巨大企業は、流通販売の面で、脅威であると同時に、強力なパートナーになるでしょう。単純にAmazonやGoogleを否定してしまうと、ビジネスチャンスを逃してしまうことになりかねません。
 書籍のメタ情報だけでなく、本文テキストの情報をAmazonやGoogle経由で流出させることで、より、本が売れるようになることもあるでしょう。

 AmazonやGoogleを利用しつつ協調できる面は、

  • AmazonやGoogleという販売機能を使うことによって、初版でもなかなか動かない本の、その中身を公開することによって、より多くの人に認知してもらい、本が売れるようになる(ロングテイル戦略)
  • 中小書店が廃業していくなかで、Amazonはそれに代わる強力な書店である。その書店は、アフィリエイト個人書店との集合体であり、書籍と資本の動きについて、Amazonが詳細に統御している(ただし、新刊本と並列で表示される古本の販売のほうが利益率が高いはずで、出版社にとっては悩みの種)

 本が売れることにより、読者、著者、出版社、流通者のすべてに恩恵があれば、よいことだと思います。
 ただし、AmazonやGoogleは、多国籍の巨大企業であり、資本の論理で動く企業です。よって、日本独自の流通状況が彼らにとってマイナスだと思えば、破壊するでしょう。リアルな書店はいらない、と思えば、それを淘汰・駆逐するでしょう。
 彼らが脅威となる点については、以下の通りです(少し穿った見方ですが)。

  • アマゾンやグーグルの最終的な目標は、「世界中のコンテンツの出版権の奪取」だと思われる。川上においては、出版社機能を、川中においては、日本の書籍取次や書店の流通販売業務を乗っ取るつもりでいるらしい。既存の大手取次資本は、日本の大出版社と連携している、ゆえに、取次が潰れれば、大出版社も潰れる。資本関係が近すぎる。だから、警戒する
  • 既存流通がなくなれば、書店の多くは廃業、超巨大ブック倉庫からの宅配便等の個別出庫・配送となる
  • 流通販売に関する強力な発言権を保持することになるアマゾンやグーグルは、出版社の倉庫に対して、土日に関係なく出庫を強要する。それに従わない場合は、ウェブでの扱いに差を付けるなど、ドラスティックに鉈で既存の流通を「断裁」していく。最終的に取次事業を開始、正味の改訂等、強気に出てくるに違いない
  • 書誌情報の掲載については、広告料金モデルに変更するかもしれない
  • ウェブだけが本の流通・販売の窓口になった場合、検閲が簡単に行えるようになる。ある者や団体にとって都合の悪い情報は、ネット上にて、一括カットが可能になるので、資本や力を持つ者はアマゾンやグーグルの「中の人」に近づくだろう。それでさらに、力を増していく。グーグルについては、すでに、中国国内に対して情報検閲を行っている。このようにして、言論の自由が封殺される恐れが強いことは現実になっている
  • PDF化された電子本が一つあれば、コピーはいくらでも可能であり、紙の本の出版、紙の本の複製販売を行う、中間媒体としての出版社は不要になる。その場合は、最初からPDFを作っておいて、ダウンロード課金する方式となり、その権限をアマゾンやグーグルが握るだろう(出版権)。これへの対抗策が必要
  • グーグルにおいては、今回の日本国内のブック検索の登録において、海外での出版権について言及し、その許諾についての登録情報を設けている(明示的ではない点んい注意)。どういうことかというと、ネットにおいては国境はないのであって、海外の出版権に関して黙示的に取得する動きがあるのではないか、ということ。電子本の海外からの逆輸入販売の可能性も視野に入れているのではないか?
  • 著者を育てること(半著作権取得)と、読者を育てること(購読権?)によって、出版・流通・販売のすべての流れからビジネスを行うことも可能

 本に関する流通の自由、出版の自由、言論の自由を保持するため、一部の出版社は、アマゾンやグーグルに対して、一定の距離をとるでしょう。アマゾンやグーグルによる販売で、完全に依存するのは危険であり、読者に対して、複数の販売のチャンネルを開いておく必要があります。既存の書店流通を維持して、複数の販売チャンネル、読者にアプローチできる複数の仕組み(直売含めて)を維持しておくことが重要かと思います。
 「紙と電子、メディアを問わない出版社」として、AmazonやGoogleなどと共存しつつ、取り込まれないように自主独立でやっていくために、今後も、ネットでの販売の仕組みや「透明テキスト付きPDF」についての扱いについて、考えていく必要があるかと思います。

Posted by gont at 2006年06月09日 16:50