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2005年12月27日

さいはての現実感は可能か−ゲド戦記のアニメ化について勝手に思ってみるさ

[ 7-現代近未来視聴覚研究 ]

 ル・グインの宮崎駿氏に対する問いの答えはインタビュー記事には書かれていない。

世界一早い「ゲド戦記」インタビュー 鈴木敏夫プロデューサーに聞く

「映画化されるのは第3巻が中心だと聞いていますが、登場するのはすでに年老いて中年になったゲドです。今のあなたにこそふさわしいのではありませんか」。

 ジブリの代表として、ゲド戦記のアニメ映画化の許諾をもらいに、鈴木プロデューサーとともにル・グインの元へと赴いた宮崎駿氏に対して、ル・グインはこう質問したのだ。その通りだ。自分の最初からこの点が不思議だった。
 宮崎駿監督が第3巻をアニメにする。老年にさしかかった大魔法使いゲドが出てくる第3巻「さいはての島へ」ならば、なるほどと合点する。
 だが、新人の監督さん(駿氏の長男)が第3巻をやるという。
 なぜ、第1巻をやらないのだろう。
 もし第1巻ならば……
 力への過信、力へと呑み込まれていくことの危険、力へと傾斜する現実の世界と、ゲド戦記第1巻『影との戦い』はシンクロする。血気盛んな若者ゲドが自らの暴力的・破壊的な力に対して、どのように向き合うか、そうしたテーマこそが現代にシンクロするのではないか? 世界で頻発するテロル、それはニヒリズムの極限、原理的・理想主義的な破壊への衝動の生みだす最期の叫びだ。ゲドが産みだした自らの影との戦い。世界に共通するテーマ、イスラムだけじゃない、全世界の若者に打ちだせるテーマになる。

 なぜ第3巻か。
 鈴木プロデューサーは現在の日本の政治状況を引きあいに出しながら、「希薄になってしまった「現実感」」「現実感のある「庶民」」を描けるかもしれないという。

 「現実感?」、インタビュアーも小見出しを立てて「?」を付けて、首を傾げている。今の日本の状況が第3巻にぴったりだというのだけど、それをもし描くとするならば、あるべき濃い現実についてすでに熟考されていなければならない。

 あるべき現実すなわち希望について、今、語ろうというのか。
 すばらしい試みだと思うが、どうも現実味が感じられない。

 鈴木氏には、プロデューサーの思惑(あるいは策謀)があるのかもしれない。興業として成功させるには、駿氏を引き入れる必要がある、それならば3巻でなければならない、と。宮崎駿=父なる力を使おう、と。
 それこそ老いた「影」ではないか?
 38歳の新人監督が大魔法(動画)使いである父の力を呼び出したら、それは影との戦い、いや、スターウォーズですよ。

 「鈴木 世論調査を見れば増税賛成が増えているし、郵政民営化や憲法改正を国民に問うんだという政治がもてはやされるのは、僕にはよく分からない」

 だって?

 ジブリが日本にいっぱい転がっている。日本人の誰もが「千と千尋〜」を観るような状況のほうがオレにはわからないし、そうした状況のほうが小泉的だとオレは思うんだが、どうだろうねぇ?

 おもしろくねぇな。

 予定調和の寸劇をブっ壊してくれ、ジブリの若手たち。
 そして、さいはての現実感、そのユートピアを観(み)せてくれ、躍動する冒険活劇漫画映画として。

「しかし、ただ生きたいと思うだけではなくて、そらにその上に別の力、たとえば、限りない富とか、絶対の安全とか、不死とか、そういうものを求めるようになったら、その時、人間の願望は欲望に変わるのだ。そして、もしも知識がその欲望と手を結んだら、その時こそ、邪なるものが立ちあがる。そうなると、この世の均衡はゆるぎ、破滅へと大きく傾いていくのだよ。」(『さいはての島へ』[ゲド戦記第3巻]より)
Posted by gont at 2005年12月27日 01:18