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2006年02月09日

帝国郊外偏圧変電所の臨界表現

[ 0-日々のFLAG ]

 どうも不穏だ。昨秋2005年パリ郊外暴動事件、2006年パレスチナでハマス勝利、2月ムハンマド風刺漫画掲載問題、イランの核問題。日本は今、あれやこれやの事件が起こって大変なのだけど……いや、それらの事象・ニュースも、必ず関係して起こっている。
 パリ郊外の暴動の問題は、貧困と差別に置かれた移民の若者の不満と、薄れていく未来への希望の問題だろう。日本人にとっても他人事ではない。日本の国力を落とさないために、外資の導入と移民受け入れを積極的に進めると、内閣は(対外的には)アナウンスしているからだ。実際に外国人労働者を大量に受け入れるならば、10-20代の若年層の約半数は、外国人と職を争わなければならない。希望格差社会、下流社会、そんな程度では済まない、大きな問題を孕むことだろう。パリ郊外で起こったことは日本でも起こりうる。

 外国人労働者は受け入れたほうがいいし、移民についても同様だと思う。日本はあまりにも「鎖国的」だと、世界からは批判されている国だ。しかし、経済的な国力維持のためだけに、安い労働力としての外国人を受け入れる、というのは間違っている。外国人を劣悪な労働環境で安い賃金で雇って使うことで日本を支えようという「付け焼き刃的な」「後ろ向きな」やり方ではフランスと同じことになる。日本の若年層は職業能力や賃金の問題から外国人と争う状況が生まれ、争いに疲れた人々が極端なナショナリストへ、リビジョニストへ、レイシストへと傾斜していく。憎しみは憎しみしか喚起せず、行き場を失った人々は、最終的には原理主義的な宗教意識にすがるしかなくなる。すでにその萌芽は見えている。

 アフガニスタンの山奥・バーミアンの巨大な石仏がタリバンによって破壊された時、その破壊が何を意味しているのか、理解できた人はいなかった(自分も「偶像を破壊するにしても、なぜ今、こんなことをするのか」としか思えなかった)。マスード暗殺があり、そして、9.11が起こり、アフガン戦争へと向かった時、世界の人々は初めて、大仏が破壊された理由を理解しはじめた。だが、「帝国」は、粉砕された大仏を省みることなくイラク戦争へと突っ走っていき、日本は小泉が旗を持って戦争に追従した。
 その後、兵器産業を潤すテロとの戦いが世界中を覆い、呑み込んだ。「帝国」の「郊外」での「民主化という名の強制と抑圧」はさらに大きくなっている。帝国から見た郊外としてのイスラムも、パリ都市近郊の郊外団地も、同じ構造の強制と抑圧が働いている。
 原理主義者たちが誘う自爆テロも、郊外の暴動も、根は同じだ。それらは宗教的対立などではなく、文明の衝突なんてものでもなく、身近な貧困と飢餓、差別と偏見、それらへの「無関心による加担」によって生まれてくる憎悪の応酬だ。警官に追われた若者が変電所で感電死したという「表現」は、憎悪と不安と焦燥、社会に力を与える原理的地点への異議申し立ての電気的表現、「帝国郊外偏圧変電所の臨界」という表現なのだ。
 パリ郊外で追われた若者が変電所に逃げ込んで感電死したことと、ムハマンドが自爆テロリストのように描かれたことは、同じ根を持っている。移民は社会の活力であるのに、若者が社会を支えていくはずなのに、生かされずに死んでいく。救いの徴たる聖者が自爆テロを行う悪として漫画に描かれ風刺される……それらが、単なる記号として(本質を伴わないものとして)表象され、ある種のプロパガンダとして流通するということ、偶像化されえないはずの存在が偶像化されるのは、ムハマンド自体が偶像化に抗する力を失っていることの証左であり、生かされずに死んでいるということだ。
 そして欧州の病。人々を救うはずの大仏を爆破するという同じ現象が、アフガニスタンのムスリムだけでなく、欧州デンマークで起こっていた、しかも言論人の中で起こっていた、ということだ。聖者のイコンを嘲ることと国旗を焼いたりする行為は同じだということ、他者の象徴を踏みにじることは、踏みにじる本人の大切な象徴がすでに破壊されている証拠なのだ、つまり、欧州の悲惨な状況の表明が、風刺漫画問題にはある。
 世の中に力を供給し平安を与えるはずの聖なる存在(宗教的な存在)が、世界中で、ことごとく死んでいる。それらについて、圧倒的に無関心である「帝国」……焼かれるデンマークの国旗の十字、デンマークを支持するという十字軍的表明を行う「帝国」の大統領。彼らはいったい何をしているのか、何者なのか。
 風刺漫画の問題は、表現の自由の問題ではない。自由そのものが、多様に存在しうる自由が奪われている。自爆テロという究極の表現にさえ無関心な世の中で、救いの表現さえも破壊されたら、残された道は、この世界全体の破壊へと向かうに違いない。なぜなら、一切の救いがない世界ならば、世界など存在しないほうがましだからだ。
 憎悪が生みだす小さな、気がつかないような小さなニュースを、ニュースが指し示す思いもよらない事実と現実を、忘れないでおこう。「戦争」という、憎悪の偽りの消失点へ向けて、世界を傾斜させようという「帝国」の動きを忘れないでおこう。次はアフガンやイラクのようにはいかないのだ。
 イランは現況で核開発は行っているが核兵器開発を行っているわけではない。しかし、「大量破壊兵器は存在する」と言いがかりをつけられ、追い込まれていったら、大量破壊兵器を作るしかなくなる。欺瞞に満ちた大義なき戦争の姿を見たイランが、イラクと同じ轍を踏むとは思えない。徹底的な衝突……物理的な、あまりに物理的な存在の衝突は、双方に破壊と消滅しかもたらさない。

*参考1

誰がバーミャン大仏を壊したのか?

ノーム・チョムスキー@Wikipedia

2005年パリ郊外暴動事件@Wikipedia

フランス暴動に見るメディア論(3)

フランス(記事のラスト)@MSNエンカルタダイジェスト

ムハンマド風刺漫画掲載問題@Wikipedia
「イスラム教徒移民が多く住むデンマークにおいて、異宗教間の相互理解を深める為にムハンマドを扱った児童向けの絵本を制作しようとする動きがあった。これに対して執筆を呼びかけられた作家たちは、偶像崇拝が禁じられているイスラム教徒からの反発を恐れ皆が誘いを断った。この経緯を聞いたユランズ・ポステンの編集者はイスラム教社会における言論の自由を巡る問題を提起しようと考え、問題の風刺漫画の執筆を依頼、紙面に掲載されることになった」

*参考2

『アフガニスタンの仏像は破壊されたのではない恥辱のあまり崩れ落ちたのだ』(モフセン マフマルバフ著、武井みゆき+渡部良子訳、現代企画室)

「仏陀の清貧と安寧の哲学は、パンを求める国民の前に恥じ入り、力尽き、砕け散った。仏陀は世界に、この全ての貧困、無知、抑圧、大量死を伝える為に崩れ落ちた。しかし、怠惰な人類は、仏像が崩れたということしか耳に入らない。」


*参考3


人類をエネルギー源とした巨大発電所への抵抗の物語『マトリックス レボリューションズ』(今さらですが「マトリックス」について・レボリューションズ

郊外の変電所を目指す少年の冒険物語『鉄塔武蔵野線』(父の夏が終わる……映画『鉄塔武蔵野線』を観る

Posted by gont at 2006年02月09日 03:48 | TrackBack