冬歩く1(2021年1月2日㈯)

正月早々、不動産物件探偵Kの調査に散歩がてら付き合うことにする。

午後。ほぼ無風快晴。気温は10℃を下るくらい。
川沿いの歩道を東へと歩いて借りている畑の様子を見てから、川と直交する南の方向へ。
河岸段丘に残された林、野寺緑地の下の畑で、夕暮れの西に富士山のシルエットが見えた。
移動中、他の場所からは見えなかった。
この風景は、この辺りが開墾され畑になったときに出現した貴重な眺望だったのだろう。
このすぐ近くに「満行寺」があり、真偽はともかく、在原業平の
「武蔵野の野寺の鐘の聲聞けば遠近人ぞ道いそぐらん」
という歌が残されている。
関東に武蔵国が作られた天平の時代に、秩父の銅で作られた鐘がある寺があったのだろうけれど、その鐘も戦乱の世に失われ、それがのちに掘り出されたという話しもある。
そこに本当に寺があったのか、鐘があったのかはわからないけれど、その場所がとても大切な場所だったことは確かだろう。
クニが作られる、それよりはるか古い時代、旧石器や縄文の時代からこの黒目川沿いの地は豊かな暮らしをもたらしていただろう。
黒目川の右岸、日影となる北側斜面はカタクリの群落があり、またその下からは豊富な湧水があり、そこからは富士山がよく見える。
縄文時代に富士は噴火していただろうし、その噴煙や噴火は昼も夜もよく見えていただろう。
人々はそこを選んで住んできた。
物件探偵Kも数千年来の人類がそこに住もうとした思いに馳せたようで、野寺緑地のクヌギの落ち葉の、冬枯れた武蔵野の道をガサガサと歩いていた。